世界遺産ってなに?設立背景や定義を詳しく解説!

みーちゃん

確かに名前はよく聞くけど、どんな組織でどのように世界遺産が決定していくのかよく知らないにゃ…!

シロ博士

実はよく知らないという皆様のために、世界遺産の成り立ちや制度の歴史、そして日本との関わりについて詳しく解説していきます!

もくじ

ユネスコと世界遺産の成り立ちは?

世界遺産制度を理解するうえで欠かせないのが、ユネスコという国際機関の存在です。まずはその成り立ちと役割を見ていきましょう。

ユネスコ設立と役割

ユネスコ:国際連合教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization)は、1945年の国連会議で採択され、1946年11月に設立されました。

国際連合の経済社会理事会の下におかれた、教育・科学・文化の発展と推進・世界遺産の登録などを目的とした国際協定です。

設立の背景には、第二次世界大戦の惨禍を繰り返さないために、国際社会が「教育」「科学」「文化」を通じて平和を築こうとした流れがあります。

戦争によって多くの文化財や自然環境が失われた経験が、ユネスコ誕生の大きなきっかけとなりました。

ユネスコの本部と組織

ユネスコの本部はフランスのパリにあります。セーヌ川近くに建つガラス張りの近代的な建物が象徴的で、世界中から派遣された職員が活動しています。

組織は、加盟国すべてが参加する総会(最高意思決定機関)、政策の実施を監督する執行委員会、そして事務局長を中心に運営される事務局の三本柱です。現在の加盟国数は194か国(2025年時点)で、世界規模のネットワークを形成しています。

みーちゃん

多くの国がユネスコの活動に加盟し様々な取り組みをしているんだにゃ!

ユネスコの活動範囲

ユネスコの活動は5分野で展開されています。

  • 教育(Education)
  • 自然科学(Natural Sciences)
  • 社会・人文科学(Social & Human Sciences)
  • 文化(Culture)
  • 情報・通信(Communication & Information)

その中でも「文化」の分野では、文化財や自然環境を守る国際的な仕組みづくりが進められており、世界遺産制度はその代表的な取り組みです。

世界遺産の定義と目的

世界遺産は単なる観光地の肩書きではなく、人類全体で守り伝えるべき価値を持つ場所として認定されます。ここでは「世界遺産とは何か?」という定義と、その目的について整理していきましょう。

「顕著な普遍的価値(OUV)」とは

世界遺産登録の根幹となる考え方が「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value, OUV)」です。

顕著な普遍的価値とは「特定の地域や国に限らず、人類全体にとって重要でかけがえのない価値を持つ」という意味を指します。

例えば、エジプトのピラミッドは古代文明の叡智を示す建造物として、屋久島は人類が共有すべき豊かな自然環境として評価され、この「普遍的価値」が認められています。

世界遺産が守るべき価値

ユネスコは、世界遺産を通じて主に以下の価値を守ろうとしています。

シロ博士

保存だけでなく、教育や観光を通じて次世代にその価値を伝えることも大きな目的のひとつになっています。

世界遺産制度はいつから始まった?

世界遺産制度は1970年代に誕生しましたが、その背景には戦後の文化財保護の課題や国際協力の流れがありました。ここでは、制度が形になるまでの道のりを順を追って見ていきましょう。

アブ・シンベル神殿の移築

1950年代末から1960年代にかけて、エジプトのナイル川に建設されたアスワン・ハイ・ダム計画により、古代エジプトの巨大岩窟神殿「アブ・シンベル神殿」が水没の危機に直面しました。

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このときユネスコは世界中に呼びかけ、資金と技術を集める国際キャンペーンを展開。その結果、神殿は解体され、高台に移築されるという前例のない大事業が成功します。このプロジェクトは「人類共通の遺産を国際協力で守る」という理念を世界に示した象徴的な出来事となりました。

みーちゃん

各国が力を合わせて遺産を救ったことが昨今の世界遺産制度に繋がっているんだにゃ!

世界遺産条約の採択(1972年)

アブ・シンベルの経験を踏まえ、国際社会では文化財と自然環境を包括的に守る仕組みが必要だという機運が高まりました。そして1972年、ユネスコ総会で世界遺産条約が採択されます。

1972年に「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」が採択されました。

この条約は以下の内容を基本理念とし、世界遺産制度は国際的な制度として整えられました。

・文化遺産と自然遺産を人類共通の財産として保護すること
・各国が自国の遺産を守るだけでなく、他国の保護にも協力すること

最初の世界遺産登録(1978年)

世界遺産条約が発効して数年後、初回の登録は1978年にアメリカ(ワシントンD.C.)開かれた第2回世界遺産委員会で行われました。このときに登録されたのは文化・自然を合わせて12件その代表例が以下です。

  • ガラパゴス諸島(エクアドル):ダーウィンの進化論でも知られる貴重な自然環境
  • イエローストーン国立公園(アメリカ):世界初の国立公園で自然保護の象徴
  • ラリベラの岩窟教会群(エチオピア):岩を掘り抜いて建設された中世の教会群

12件全ての世界遺産をチェック

自然遺産(4件)
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ガラパゴス諸島エクアドル独自の生態系を持ち、ダーウィンの進化論に影響を与えた火山諸島。
イエローストーン国立公園アメリカ世界初の国立公園。間欠泉や多様な動植物が特徴で、地熱活動を体現。
シミエン国立公園エチオピア切り立った山岳景観と固有種(ゲラダヒヒ等)を抱く自然環境。
ナハニ国立公園カナダ大渓谷や温泉、滝などが広がる原生自然地域。先住民文化とも結びついた景観。

文化遺産(8件)

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アーヘン大聖堂ドイツカール大帝が築いた大聖堂。中世ヨーロッパ建築の原型で、皇帝の戴冠式が行われた場所。
キト市街エクアドルスペイン植民都市と先住民文化が融合した旧市街。アンデス山中に位置する都市計画の典型。
ラリベラの岩窟教会群エチオピア岩を掘り抜いて造られた11の教会群。エチオピア正教の聖地として今も巡礼が続く。
クラクフ歴史地区ポーランド中世の町並みがそのまま残る旧都。ゴシックやルネサンス様式の建築が集積。
ヴィエリチカ岩塩坑ポーランド13世紀以来の岩塩採掘場。坑道や礼拝堂が地下に広がり、技術史の証拠となる。
ゴレ島セネガル大西洋奴隷貿易の拠点。奴隷の家などが残り、人類の負の歴史を伝える。
ランス・オ・メドー国定史跡カナダ北米最古のヨーロッパ人入植地。ヴァイキングが築いた住居跡が残る。
メサ・ヴェルデ国立公園アメリカ古代プエブロ人の断崖住居群。高度な生活技術と社会の痕跡を示す。
みーちゃん

これらが登録された1978年が実質的な世界遺産制度のスタートってことだにゃ!

世界遺産委員会の開催

世界遺産委員会は現在も年1回開催され、開催地は固定ではなく加盟国の持ち回り制です。この場で新しい遺産の登録や危機遺産の審議が行われています。近年では2025年パリ(第47回)、2026年釜山(第48回予定)といったように、世界各地で開催されています。

世界遺産の種類

世界遺産は大きく分けて「文化遺産」「自然遺産」「複合遺産」の3つに分類されます。それぞれの特徴と代表的な事例を見ていきましょう。

文化遺産は、人類の歴史や文化的活動の成果を示す建造物や遺跡、景観などが対象です。

  • ギザのピラミッド群(エジプト):古代文明の象徴であり、建築技術の粋を示す遺産。
  • 法隆寺地域の仏教建造物(日本):世界最古級の木造建築群として、東アジアの宗教文化を象徴。

自然遺産は、地球が生み出した特異な自然環境や生態系、地形などが対象です。

  • 屋久島(日本):樹齢数千年の屋久杉を中心に、多様な生態系が広がる。
  • グランド・キャニオン国立公園(アメリカ):地層の重なりが地球の歴史を物語る雄大な景観。

複合遺産は、文化的価値と自然的価値の両方の基準を満たして登録されるものです。

  • マチュ・ピチュの歴史保護区(ペルー):インカ文明の石造都市とアンデスの原生環境が一体となった遺産。
  • タスマニア原生地域(オーストラリア):人類史の痕跡と手つかずの自然が共存する広大な地域。

複合遺産は数こそ多くありませんが、自然と人間の営みが融合した特別な価値を持つ遺産として高い注目を集めています。

世界遺産の登録基準と要件

世界遺産リストに入るには、「顕著な普遍的価値(OUV)」を具体的に示す10の登録基準のいずれかを満たすことに加え、真正性/完全性や保護・管理体制などの要件も満たす必要があります

10項目の登録基準

  • (i) 創造的才能の傑作
  • (ii) 価値の交流
  • (iii) 顕著な証拠
  • (iv) 歴史の段階を示す代表例
  • (v) 伝統的集落・土地利用
  • (vi) 顕著な関連性
  1. (vii) 自然美・超卓越した現象
  2. (viii) 地球史の証拠
  3. (ix) 生態・生物過程
  4. (x) 生物多様性の生息地

真正性/完全性と保護管理体制の要件

真正性(文化)と完全性(自然)

  • 真正性(Authenticity):文化遺産が真実性・信頼性を持って価値を表現しているか。
  • 完全性(Integrity):文化・自然の価値を示す要素が十分揃い、全体性が保たれているか。

保護・管理体制の要件

  • 明確な境界と必要に応じたバッファゾーン
  • 法的保護制度
  • 管理計画(または管理システム)の存在
  • 定期報告とリアクティブ・モニタリング

「範囲を決める → 法的に守る → 管理計画を持つ → 定期報告する → 問題があれば国際監視」という流れで、世界遺産を守り続ける仕組みが求められています。

世界遺産登録までの流れ

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暫定一覧表への記載

まず各国は、自国の遺産候補をユネスコに提出し、暫定一覧表に登録します。この一覧に載っていない遺産は、原則として正式な推薦ができません。暫定一覧表は、その国が将来的に世界遺産を目指す候補リストとして機能しています。

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推薦書の作成と提出

登録を目指す遺産について、政府は詳細な推薦書を作成し、ユネスコ世界遺産センターに提出します。この推薦書には、遺産の価値や登録基準に当てはまる理由、法的な保護制度、管理計画、保存状況などが含まれます。

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専門機関による評価

提出された推薦書は、ユネスコの専門機関によって評価されます。文化遺産は ICOMOS(イコモス:国際記念物遺跡会議)、自然遺産は IUCN(アイユーシーエヌ:国際自然保護連合) が担当します。必要に応じて現地調査が行われ、保全状況や管理体制が国際的な基準を満たしているか確認されます。

ICOMOS(国際記念物遺跡会議)

文化遺産の保存・調査を専門とする国際組織。考古遺跡や歴史的建造物、文化的景観の価値と保全状況を評価し、世界遺産委員会に助言を行います。1965年にユネスコのヴェネツィア憲章に基づき設立されたユネスコの諮問機関です。

IUCN(国際自然保護連合)

自然保護を目的とする国際的な組織。森林・湿地・海洋や野生生物を対象に調査を行い、自然遺産の価値や保護体制を評価して世界遺産委員会に報告します。1948年に設立され、本部はスイスにあります。

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世界遺産委員会での決定!

年に一度開かれる世界遺産委員会で、最終的な登録の可否が決まります。結果は「登録」「登録延期」「情報照会」「不登録」のいずれかで、委員国による審議と投票によって決定されます。

シロ博士

実際には登録までに10年以上かかることもあるんです。
長い道のりですね…!

ユネスコ世界遺産と日本の関わり

世界遺産制度は国際的な枠組みですが、日本にとっても大きな意味を持っています。条約加盟から初登録、そしてその後の展開までを見ていきましょう。

日本の加盟と初登録(1992〜1993年)

日本は1992年に世界遺産条約に加盟し、翌1993年に4件が初めて登録されました。

  • 法隆寺地域の仏教建造物(奈良県)
  • 姫路城(兵庫県)
  • 白神山地(青森・秋田県)
  • 屋久島(鹿児島県)

【みー】「にゃんと!日本の最初の世界遺産は法隆寺と姫路城、そして白神山地と屋久島なんだね!行ってみたいにゃ〜」

日本の世界遺産の特徴

現在、日本の世界遺産は**26件(文化21・自然5)**です。自然遺産は以下の5件です。

  • 屋久島(1993年)
  • 白神山地(1993年)
  • 知床(2005年)
  • 小笠原諸島(2011年)
  • 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(2021年)

文化遺産が多数を占め、宗教建築や城郭、伝統的集落や景観などが目立ちます。

国際社会への貢献

日本は世界遺産基金への拠出、危機遺産の修復支援、専門家派遣などを通じて国際協力に貢献。特にアジア地域への技術協力に積極的です。


世界遺産の数と広がり

世界遺産は年に一度の委員会で増減し、地域バランスや種類にも特徴があります。

世界全体の件数(2025年時点)

2025年7月の第47回世界遺産委員会終了時点で、**170か国の計1,248件(文化972/自然235/複合41)**です。

地域別の傾向

  • 欧州・北米:581件
  • アジア・太平洋:305件
  • ラテンアメリカ・カリブ:153件
  • アフリカ:112件
  • アラブ諸国:97件

欧州・北米に集中していますが、近年はアフリカの新規登録や危機遺産解除が進んでいます。

日本の件数と位置づけ

日本は**26件(文化21・自然5)で、直近では佐渡島の金山(2024年登録)**が加わりました。複合遺産はまだありません。


守り続けるための仕組み ― 危機遺産リスト

世界遺産は登録後も継続的に保護が求められ、脅威にさらされると「危機遺産リスト」に入ります。

危機遺産リストとは

価値を損なう重大な危険にある物件を特定し、国際支援を動員する仕組みです。2025年時点で53件が指定されています。

直近の動き(2024–2025)

  • 2024年:パレスチナ自治区の聖ヒラリオン修道院が登録と同時に危機遺産入り
  • 2023年:ウクライナのオデーサ歴史地区が危機遺産指定
  • 2025年:アフリカの3件(アツィナナナの雨林/アブ・メナ/ガダーミス旧市街)が危機遺産から解除

危機遺産と登録抹消

危機遺産は「救済の猶予」ですが、改善されなければ登録抹消もあります。2021年には**リヴァプール海商都市(イギリス)**が開発により抹消されました。


まとめ

世界遺産は、基準・真正性/完全性・保護体制を満たしたうえで登録され、年1回の委員会で保全状況が監視され続けています。地域バランスの課題は残るものの、新規登録と危機遺産解除の両面で制度は進化を続けています。

【シロ博士】「世界遺産は“選ばれること”より、“守り続けること”が本番じゃ。訪れる時は、背景や仕組みも知っておくと旅の見方が変わるんじゃよ」

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